2017年5月31日水曜日

北斎漫画

日本は美しいものを生み出す東洋の神秘である。そんな認識がジャポニスム華やかなりしころの西洋に芽生えました。北斎は、その象徴的な存在として語られていたのです。
しかし驚くことに、西洋の芸術家たちを熱狂させた北斎の実力は、実は日本から輸送された陶磁器の包装紙という役割によって伝えられたのです。ヨーロッパに送られる陶磁器の包み紙(というより緩衝材)に利用された『北斎漫画』の断片が、西洋の芸術家たちの目に留まり、まさしく衝撃的な影響を与えることになった。なんだか漫画のような逸話ですが『北斎漫画』も〝事実は小説よりも……〟を地で行ったわけなのです。
『北斎漫画』十二編 「風」天保5年(1834) 浦上蒼穹堂蔵
そもそも『北斎漫画』は、門下生のために北斎が名古屋で描いた300余り(初編の場合)の下絵を、版元が売れると見込んで売り出したもの。そこには、これ以上はないというほど簡潔で単純な線でありながら、地上のありとあらゆる事象や物象が圧倒的なデッサン力によって表されていました。これまで見たこともないビジュアル・イメージが記されているのですから、『北斎漫画』は当然のように大きな話題となります。
長い画歴の中で蓄積した北斎の卓越した技量と、絵に描けぬものはないとでも言いたげな深奥なる想像力が凝縮された、いわば絵師・北斎の分身とも言うべき『北斎漫画』。この作品を味わわずして、北斎を語ることなかれ。そう言わしめるだけの存在と迫力です。
『北斎漫画』 三編「遠近法とその描き方」文化12年(1815)浦上蒼穹堂蔵 

『すみだ北斎美術館』に北斎漫画を見に行きましょう!!

住所/東京都墨田区亀沢2-7-2 地図
TEL/03-5777-8600 (ハローダイヤル)
会館時間/9:30~17:30(入館は閉館の30分前まで)
料金/[常設展]一般  400円(団体320円)高校生、大学生、専門学校生、65歳以上 300円(団体240円)
休館日/月曜日

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2017年5月12日金曜日

広重風景が

歌川広重は、自然をわかりやすく描く方法においても群を抜いた技を見せています。
なぜ広重はかくも情緒的に自然をとらえることができたのでしょうか……。広重の絵は自然をそのまま写生しながら、そこに印象的な気象や人を描き加え、詩情溢れる情景をつくり上げています。それを成し得たのは、当時最新の透視図法や円山四条派の写生画を取り入れたことで、リアルに見える絵画的表現を会得したからだと考えられています。
広重の風景画を見ると、だれもがつい郷愁を覚え、人の心に染み入るような印象を受けるのは、写実を超えたわかりやすい表現方法にあったのです。晩年の広重はみずからの作品について、「目の当たりに眺望した絵」と語っています。そこに、自然をより自然に描くことに腐心した広重の生涯を見る思いがします。

雨『名所江戸百景 大はしあたけの夕立』


広重の作品にはたびたび雨が登場します。それは、細い直線を平行に並べたもので、この作品のように急な夕立を表すときには線の幅を密にして、さらに角度を変えて重ねて、叩きつけるような雨の状況を表現。実際の雨がこんな直線でないとわかっていても、ひと目で雨とわからせるテクニックこそ、広重の自然表現の真骨頂。

夜『名所江戸百景 王子装束ゑの木 大晦日の狐火』


暗闇に瞬く無数の星に照らされて、ほのかに見える木立や建物。目を凝らすと、吹き抜ける風まで描き込まれていて、夜のイメージがリアルに再現されている。この作品において広重は、誇張やデザイン化を極力避け、見たままの自然をできる限りストレートに描こうとしているようで、かえってそのテクニックが際立っている。

雪『木曾海道六拾九次之内 大井』


背景に白い点をびっしりと描き込んだ雪の表現は、決して技巧的でも斬新でもないが、広重の手にかかると、松の枝や笠に積もった雪と相まって、しんしんと降り続く雪の冷たさまで感じられる。そこに、雪を描かせたら広重の右に出る者はいないと言われる所以がある。

歌川広重が「目の当たりに眺望した絵」3選全図

『名所江戸百景 大はしあたけの夕立』 (めいしょえどひゃっけい おおはしあたけのゆうだち)大判錦絵 安政4(1857)年
『名所江戸百景 王子装束ゑの木 大晦日の狐火』 (めいしょえどひゃっけい おうじしょうぞくえのき おおみそかのきつねび)大判錦絵 安政4(1857)年 
『木曾海道六拾九次之内 大井』(きそかいどうろくじゅうきゅうつぎのうち おおい) 大判錦絵 天保6~9(1835~1838)年ごろ