2016年11月10日木曜日

北斎とダビンチ

北斎は世界最高のアーティスト!

日本ではあまり知られていないことですが、北斎は江戸時代の市井(しせい)の絵師にもかかわらず、海外で最も有名な日本人であり、各方面から絶賛されている特別な存在のアーティストです。

ダ・ヴィンチと双璧をなす、科学的視点に基づく作画

14世紀半ばから16世紀にかけてのイタリア・ルネサンス期を代表する大芸術家のレオナルド・ダ・ヴィンチは、絵画、彫刻、建築、音楽といった芸術分野はもとより、科学や数学、工学、解剖学、地学、植物学といったジャンルにも才能を発揮した、まさに万能の天才です。ダ・ヴィンチの科学的・多角的な知識や見地はなんと、自然と共生し、自然から学んだものだと本人が語っています。そして、「絵画こそ最高の芸術」だと断言しているのです。同時代の偉大な彫刻家・ミケランジェロはその言葉に憤慨(ふんがい)し、ダ・ヴィンチに詰め寄ったところ、「君には空気は表せないが、私は空気が描ける」と言い返されます。科学的な視点をもっていたダ・ヴィンチは、遠くの山が青く見えるのは水蒸気の層によるものだということを知っており、空気を描くという意味がわかっていたのです。そして、空気遠近法という画法を編み出し、絵画こそ最高という言葉を裏付けました
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ダ・ヴィンチと同じように、北斎もつねに自然に目を向け、的確に描き表すことを可能にした絵師のひとりです。その結果、自然と人間が闘っているという観点をもつようになり、『神奈川沖浪裏』(かながわおきなみうら)の大波をはじめ、風や水の動きまで絵画として表現することに成功したのです。
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ここに紹介したダ・ヴィンチのスケッチと北斎が描いた波を見比べてみてください。時代や技法の差こそあれ、描写はまるでトレースしたかのように似通っています。しかも、北斎のほうがはるかにアーティスティック。この、万能の天才にも勝る観察眼こそ、北斎の絵の凄さの秘密です。
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世界的建築家の作庭のモデルになった!

帝国ホテル旧本館の設計者として知られるアメリカの建築家、フランク・ロイド・ライトは、日本の近代化に尽力するかたわら、浮世絵を愛し熱心にコレクションをしていたという側面があったことをご存じでしょうか。それを物語るのが、ライトが手がけた歴史的な作品、「落水荘」(らくすいそう)の建築秘話です。落水荘は、アメリカのピッツバーグで、デパートの経営者として成功したオーナーのカウフマンのために設計した邸宅の別名で、その名は邸内を勢いよく落ちていく滝の水に由来しています。自然豊かな郊外にふさわしい別荘を希望したカウフマンのオーダーを受け、ライトが示した設計図は、なんと滝の上に立っている邸宅。
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それを見たカウフマンは、滝の上ではなく滝を見ながら暮らしたいと変更を要求。それに対してライトは、「滝やそれを取り巻く自然と一体となって暮らしてもらいたくて、この家を設計した」と答えます。そして、やおら取り出した一枚の浮世絵が、北斎の『諸国瀧廻り』(しょこくたきめぐり)でした。
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滝から流れ落ちる水をユニークに描いた浮世絵を眺めるカウフマンにライトは、日本人が自然と共生していることを語りかけ、納得させるとともに満足へと導いたと伝えられています。近代建築史に偉大な業績を残し、その作品が世界遺産に指定されることが確実視されているフランク・ロイド・ライトが、北斎の『諸国瀧廻り』を手本にしていたとは!海外の別荘にまで影響を及ぼし、それが歴史的建築物として名を馳せるとは、北斎には知る由もなかったことでしょう。
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